- 10月 1, 2026
ヘルニアの痛みは炎症なのか、圧迫なのか?
-炎症が主役なら改善しやすい 神経根が逃げられないと治りにくい-
先日、70代で、狭窄を伴わない、純粋なヘルニアの患者のAさんを診ました。比較的珍しい。

3年前にはなかった左L5SヘルニアがS1神経根に当たっています(:赤↗)。
神経根の後ろ、画面の下側には白い部分、すなわち髄液腔があるので、後方からは圧迫されていない、つまり、脊柱管狭窄がありません。
既に発症して1か月。すぐに治るだろうと思って2週間は内服で様子を見ましたが、治りません。
「疼きます」、と。
一応、S1神経根ブロックを予定して2週間後に診察すると、「もう痛みはないです」。
ヘルニアが神経根に接触し、炎症が起こり、神経根が浮腫・感作されて、強い痛みが出た。炎症が発症2か月ほどで改善し、お薬でコントロールついた、という事でしょう。
同じ日に来られた、以前手術した患者のBさん。
この人はヘルニアがあり、狭窄、つまり、後方からの圧迫もありました。

全然お薬では改善せず、手術になりました。

椎間板ヘルニアによる神経症状には、大きく二つの要素があります。
一つは、化学的な影響、つまり炎症です。
椎間板の中にある髄核が飛び出すと、炎症反応が起こります。
サイトカインなどが神経根の周囲に放出され、神経根がむくみ、過敏になります。
つまり、神経を強く押していなくても、炎症だけで痛みやしびれが出ることがあります。
特に発症して間もない時期には、この「炎症」の寄与がかなり大きいです。
Aさんは、この化学的な痛みがメイン、なんでしょう。
もう一つは、物理的な影響です。ヘルニアが神経根を直接押す。脊柱管狭窄を伴っていると、神経根は逃げられずに圧迫されます。圧迫が強ければ、神経根の静脈還流や微小循環が悪くなり、神経がうっ血、虚血状態になります。これは、脊柱管狭窄症で神経が圧迫されて症状が出る仕組みと、かなり共通しています。
つまり、椎間板ヘルニアによる症状は、炎症による影響と、圧迫・虚血による影響の両方によって起きている。そして、その割合は時間とともに変わるのです。

Bさんでは、炎症よりも、神経根が逃げられない状態で圧迫されることによる循環障害の寄与が大きかったのだと思います。
発症初期には、炎症の影響が大きい。ロキソニンなどの抗炎症薬が効くことがあります。。
その後、炎症が落ち着いてきても、物理的な圧迫が強く残っていれば、痛みやしびれ、筋力低下などが続くことがあります。循環を改善するのがオパルモンです。ヘルニアのみなら適応はありません。(正直に言って、あんまり効きません。)
同じ大きさのヘルニアでも、ものすごく痛い人もいれば、ほとんど症状がない人もいる。
同じ患者さんでも、MRI所見は変わらないのに、数週間で症状だけ大きく変わることがある。
炎症と圧迫の二つに分けて考えると、かなり理解しやすい。
そしてこれは、治療方針を考えるうえでも大切です。
発症早期で強い痛みがあっても、「神経がひどく潰されている」とは限りません。
炎症の影響が大きければ、時間とともに改善する可能性があります。
一方で、明らかな筋力低下が進行している、強い圧迫がある、あるいは症状が長く続いている場合には、物理的な圧迫の影響をより強く考えなければなりません。
結局、椎間板ヘルニアも、MRIの写真だけでは分かりません。
痛みの原因が炎症なのか。圧迫なのか。
画像だけではなく(むしろ画像よりも)、症状の経過、神経学的所見、生活への影響を一緒に見ながら治療を考える必要があります。
だから私は、「ヘルニアがあるか」だけではなく、「その神経根が今、どういう状態なのか」を診ています。