- 10月 13, 2026
足首の麻痺とヘルニアの手術適応
―MMT4という数字と、患者さんの本当の気持ち―
- 先日の腰椎椎間板ヘルニア、少し麻痺があるけど生活できる男性の後日談です。
「先生、手術した方がいいんですか?」
「あなたは、どうしたいですか?」
「それを決めるのは先生でしょう」
このコラムは、以前書いた4分類(目が痛いコラム)
- 医学情報提供編
- 外来での葛藤編
- 内省編
- そして自己愛編
で言うと、医学情報提供編、かつ外来での葛藤編、むしろ内省編です。
前回のコラムを書いた当初は、患者さんが「どのくらい困っている」とか、「手術してでも治したい」、「手術は嫌、怖い」などの気持ちを言ってくれないのは困るなあ、というレベルでした。
なぜ困るか、SDM(共同意思決定)の4要素と絡めて書きました。
でも、書いた後、ゆっくり考えているうちに、違うことが気になってきました。
「そもそも患者さんは、どういう気持ちだったの?」
そこ考えろよ。そこ掘れよ。自分に対して、そう思いました。
時間がたち、ゆっくり考えると、なんか見えてきました。
多分、患者さんは、
① 現在、下肢の痛みはあるけど、それほど困っていない。
② 筋力低下は(MMT4の中でも)そもそも軽い。
③ 本当は手術したくない。でも、「麻痺があるから手術せなあかんのかなあ」と思っている。
ということなのだろう。
①については、遠方への出張も、毎日の仕事もできている。
②については、後で詳しく説明します。
そして③。
手術したくないのは当たり前です。
でも、医学的に手術しなければいけないのであれば、わがままは言いません。
先生、はっきり指示してください。そういう気持ちだったのではないか。
つまり、患者さんは手術するかどうかを私に丸投げしたかったのではなく、
「手術しなくても大丈夫なのか、医学的に判断してほしい」
ということだったのかもしれません。今考えれば、当然のことです。
それを理解しないで「あなたはどうしたいですか?」と聞いていた私が浅はかだった。
- そもそもMMT4って、どの程度の麻痺?
ここで少し医学的な話をします。
筋力低下、つまり麻痺の程度を評価するときに、私たちはMMT(徒手筋力テスト)を使います。

筋力が正常なら5。
重力に逆らって動かせるけど、抵抗を加えると負けるのが3。
重力に逆らえないけれど、重力の影響を減らせば動かせるのが2。
では、4は?
重力には余裕で勝つ。抵抗にも耐えられる。でも完璧ではない。
ということです。

つまり、MMT4というのは、3と5の間です。
これが結構、幅広い。
正常にかなり近い4もあれば、重力には勝てるけれど、少し抵抗を加えると負けてしまうような4もある。
だから4だけは、4+、4-などと細かく分けることもあります。
ただし、これは厳密に数値化された筋力ではありません。検者による違いもあります。
当院の理学療法士は、決められた方法で丁寧にMMTを評価しています。
術前から診てくれているので、術後の変化も比較しやすい。大変役に立っています。
今回も患者さんが左足首の動きにくさを自覚していて、リハビリに出していたところ、理学療法士がMMT4と評価してくれていました。
ところが、(というか、忙しさにかまけて)私自身は患者さんの足に触れていませんでした。
患者さんは日常生活ができている。
理学療法士もきちんと評価してくれている。
でも、それだけでなく、大事なときは自分で診なければいけない。
当然のことです。
数日後、患者さんが再び来院しました
診察前から、今回はこうしようと決めていました。
まず、MMTを自分で計測する。
麻痺や痛みで日常生活にどの程度差し支えているのか、具体的に質問する。
そして、患者さんが気持ちを言いにくいのであれば、こちらから誘い水をしてみる。
診察室に入ってきた患者さんは、笑顔で、
「また来ちゃいました」と。
まず、足首のMMTを自分で計測しました。
すると、頭で考えていたのと違って、実際に触ると「力強さ」を感じました。
確かに5ではない。でも、想像していた4よりもずっとしっかりしている。
もちろん、触っただけで今後の回復が予測できるわけではありません。
でも、この筋力なら、十分に経過を見られるのではないかと感じました。
「実は仕事もできるし、それほど困っていないんじゃない?」
「はい、できています」
「足首の麻痺は、だいぶ軽い方だから、様子を見ようか。よくなっていく可能性は十分あると思う。ただし、悪くなるようなら話は別だからね」
「はい!」
これだけです。
普通の、当たり前のやり取りです。でも、前回はこれができなかった。
患者さんは、最初からこういう説明を求めていたのかもしれません。
「手術しなくてもよい」と、医学的に言ってほしかったのだと思います。
こちらに時間がなかったり、心に余裕がなかったりすると、こういう当たり前のことがうまくいかない。少し時間を置いて、ゆっくり考え直すことは重要ですね。
- MMT4の麻痺があれば、手術すべきなのか?
腰椎椎間板ヘルニアによる筋力低下には、手術のタイミングという問題があります。
2026年のAO Spineの推奨では、MMT3以下の中等度から高度の麻痺では、早期の手術が重要とされています。
一方、MMT4の比較的軽い麻痺であっても、日常生活に明らかな支障がある場合には、早期手術を検討することが推奨されています。
つまり、同じMMT4でも、その中身が重要なのです。
例えば、
- 足が引っかかって転びそうになる
- 踵歩きができない
- 足首の力が弱く、仕事や日常生活に支障が出ている
こういう場合は、MMT4でも手術を積極的に検討します。
一方で、
- 普通に歩ける
- 仕事も日常生活もできている
- 筋力低下が軽く、悪化していない
こういう場合には、保存療法も十分に選択肢になります。
ただし、生活できていれば必ず大丈夫、というわけではありません。
麻痺がいつから始まったのか、進行しているのか、改善しているのか。これも重要です。
また、早期手術の有効性を示す研究が、そのまま「手術しなくても安全」という証明になるわけでもありません。
だから、手術せずに様子を見るのであれば、麻痺の変化をきちんと追いかけなければいけません。
参考:AO Spine Clinical Practice Recommendations: When to Operate in Lumbar Disc Herniation
- MMT4という数字と、患者さんの本当の気持ち
今回、二つのことを反省しました。
一つは、患者さんの気持ちを十分に理解していなかったこと。
もう一つは、MMT4という数字だけを見て、自分の手で足を診ていなかったこと。
同じMMT4でも、その中身は患者さんによって違います。
日常生活への影響も違うし、患者さんの気持ちも違います。
そして、数字だけを見ていた私と、自分の手で足を触った私とでは、判断も違いました。
「手術した方がいいんですか?」
あの質問に、今なら答えられます。
「今の麻痺なら、手術せずに様子を見てもよいと思います。ただし、悪くなったら話は別。だから、しっかり診ていきましょう」
- 「麻痺があるから手術」ではない。
でも、「患者さんが困っていないから手術しない」だけでもない。
医師は医学的に判断する。そして、患者さんが何を心配し、何を求めているのかを理解する。難しいねえ。