- 6月 13, 2026
頚部痛にMRIは必要ですか?
ここにも Shared Decision Making(SDM:共同意思決定)

四肢の神経症状を認めない頚部痛のみの患者さんで、「とにかくMRIを撮ってほしい」と希望される方は少なくありません。
「ものすごく辛いのでMRIを撮ってほしい」
「周りからMRIを撮った方がいいと言われた」
そう言われることがあります。
MRIを撮影し、所見を説明した結果、治療としては内服、湿布、リハビリ、時に注射という保存的治療になることも少なくありません。しかし、そのような治療を勧めても、
「薬は要りません」
「リハビリも結構です」
と言われることがあります。
「それほど辛いのであれば、まず治療ではないのだろうか?」
そう感じることもあります。
先日、こんな患者さんがおられました。
50代女性。
2年前から左後頚部痛があり、整体や整形外科クリニックで「ストレートネック」と言われていました。
3か月前から症状が悪化。
左右どちらへ首を回しても痛い。
肩こりはあるものの、四肢の痛み、しびれ、麻痺はありません。
そしてMRIを希望されていました。
以下は私の説明まとめです。
まず、「ストレートネック」という言葉が引っかかる。
ストレートネックと言われること自体が問題ではない。
説明した人がその言葉に甘えているのが×。
大切なのは、それがなぜ悪いのかを説明すること。
頚椎のカーブが少ないことそのものよりも、頭が肩より前へ出ている状態(頭部前方移動)の方が重要。
頭部が前へ移動すると、頚部の筋肉には大きな負荷がかかります。
その結果として筋疲労、筋緊張、局所の循環不全が生じ、頚部痛につながる可能性がある。
この患者さんは、確かに頚椎配列はややまっすぐだが、頭部の前方移動は目立たない。したがって、「ストレートネックだから痛い」と単純には言えない。
さらに説明を続けました。
頚椎疾患、とくに頚部痛については、腰椎疾患ほど病態が解明されていない。
MRIを撮影したとしても、明確な解決策が得られない可能性がある。
もし神経根障害や脊髄障害を示唆する所見があり、それに対応する症状があれば、MRIは治療方針に大きく関わる。しかし今回は四肢症状がない。
頚部痛のみでは、MRIで異常が見つかっても手術適応に直結することは通常ない。
保険診療においては、検査には医学的必要性が求められる。患者さんの希望だけで検査を行うのではなく、その結果が診断や治療方針に役立つかを考えなければならない。
さらに発熱、悪性腫瘍の既往、進行する麻痺などのレッドフラッグ所見がないので、一般論としてはMRIの必要性は高くない。
しかし一方で、
・他院で数か月以上保存的治療を受けていること
・症状が長期化していること、
・最近悪化していること
・患者さんが強くMRIを希望していること
これらを考えると、MRIを行うことにも一定の合理性がある。
ここまで説明したところ、患者さんはこう言われました。
「情報が少ないまま保存的治療を続けるのが辛いんです」
私はその言葉が印象に残りました。
患者さんが求めていたのは、必ずしも手術や特別な治療ではありません。
まず自分の首で何が起きているのかを知りたい、という気持ちだったのです。
そして私たちはShared Decision Making(SDM:共同意思決定)を行い、「MRIを撮影する」という選択をしました。
結果はC4/5、C5/6、C6/7に左寄りの小さな椎間板ヘルニア。
しかし神経症状はなく、画像所見からも手術適応はありませんでした。
少なくとも今回のMRI所見が頚部痛の主因であるとは考えにくい印象でした。
治療方針としては、
・全身の重心バランス
・左右荷重
・骨盤や胸椎の可動性
・脊柱全体のアライメント
・筋力や筋量
を評価し、頚椎周囲の環境を改善していくこと。
これは当院リハビリテーションの得意分野です。
薬物療法としては、
プレガバリン25mg眠前、葛根湯 2包 分2から開始。
今回の症例で改めて感じたことがあります。
MRIが必要だったか不要だったか、の問いだけでは不十分。
大切なのは、
- 患者さんが何に困っているのか(症状)。
- 医師がどのような医学的情報を持っているのか(エビデンス)。
- そして患者さんが何を大切に考えているのか(価値観)。
それらを共有しながら、一緒に方針を決めることです。
MRIを撮るか撮らないか以上に、
「どうやってその結論に至ったか」
こそが、現代医療において大切なのではないかと思います。