• 6月 26, 2026

「坐骨神経痛」という言葉、病名ではない その原因を探すのは専門医

外来をしていると、「坐骨神経痛」という言葉をよく耳にします。

先日も、3年前に脊柱管狭窄症の手術を受けていただいた患者さんが再診されました。

術後経過は良好でしたが、最近になって下肢痛が出現したとのことでした。

診察したところ、新たな神経障害が疑われました。

当日にMRIを撮影し、画像と症状を照らし合わせると、L3/4外側型椎間板ヘルニアによるL3神経根症が考えられました。

結果を説明しました。

「L3が新たに損傷されとるんちゃうかなあ。神経根ブロックで確かめつつ、あわよくば治っちゃおうか」

L3神経根ブロックを行ったところ、症状は改善し、同時にL3神経根症であることも確認できました。


本題から少しそれます。

診察、MRI、結果説明、神経根ブロックによる診断と治療までを1回の外来で終わらせる淡海せぼねクリニックは、かなり珍しい施設だと思います。

実はこの患者さんだけでも、

・初診診察

・MRI結果説明

・ブロック後の効果判定

と、同じ日に3回診察しています。

予約制なのに外来が押し気味になる理由のひとつでもあります。皆様、ご理解ください。

ちなみに私がこれまで勤務した施設では、

・神経根ブロックは別日

・担当医が別

・入院して実施

が普通でした。

榊原温泉病院では整形外科の先生にお願いしていました。

藤枝平成記念病院では週に1回だけのブロック枠でした。

三重大学では患者さんを車椅子で透視室へ連れて行き、放射線技師さんとお互いの空き時間を探して実施していました。

外来でその場で行うことは、まず不可能でした。

現在のスタイルは、

「患者さんを早く楽にしてあげたい」、「原因をはっきりさせたい」、の結果なのです。


さて、本題に戻ります。

最後の説明中に患者さんがこう言われました。

「周りから言われるんやけどー、あたし坐骨神経痛ちゃいますか?」

私は少し驚きました。そして、「ああ、もう一回まとめなあかんな」と思いました。

まあ、初診からブロックまでが早すぎるのかもわかりませんね。

仙腸関節症ブロック、上殿皮神経リゾトミー、「坐骨神経痛」と井須豊彦先生 | 淡海せぼねクリニックブログ

患者さんに悪気はありません。おそらく患者さんの頭の中では、

L3神経根症とか、ヘルニアとか、神経根ブロックとか、そういう話とは別に、

何かぼんやりとした『坐骨神経痛』病が存在していて、

それがまだ隠れているのではないか。そんなイメージだったのだと思います。


「坐骨神経痛」は病名ではありません。頭痛や腹痛と同じように、「症状の名前」です。

その中には、

・椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症、神経根障害、馬尾障害、梨状筋症候群、仙腸関節障害、上殿皮神経障害 など、さまざまな病態が含まれています。

つまり、

「坐骨神経痛ですね」という言葉は、診断のゴールではなくスタート地点なのです。

頭痛ですか、原因は? 腰痛ですね、原因は?と同じで

坐骨神経痛ですね、原因探して治しましょう、という事です。


まず、医学的に厳密な意味での坐骨神経痛です。

L4〜S3の神経は仙骨神経叢を形成し、その先で坐骨神経になります。

したがって、

・L4〜S1神経根障害(椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症など)

・梨状筋症候群、・骨盤内腫瘍による坐骨神経圧迫

などが、本来の意味での坐骨神経痛です。

一方、

L1〜L3神経根は腰神経叢となり、大腿神経などを形成します。

今回の患者さんはL3神経根症でした。つまり厳密には坐骨神経ではなく、大腿神経系の症状です。

しかし患者さんが使う「坐骨神経痛」はもっと広い意味です。

尻や脚の痛みしびれ症状を全部まとめて「坐骨神経痛」と呼びます。


「坐骨神経痛」という言葉が嫌いなわけではありません。

患者さん同士の会話なら、それで十分です。むしろ便利な言葉です。

ただ、私たち脊椎専門医はそこで終わったらいけません。

坐骨神経痛だから何なのか。

L3なのか、L4なのか、L5なのか。

神経根なのか、馬尾なのか。

骨盤なのか、末梢神経なのか。

原因はヘルニアなのか、狭窄症なのか。

一つひとつ探していくのが仕事です。

患者さんは「坐骨神経痛」と言ってもいい、でも専門医は、そこで思考を止めてはいけません。坐骨神経痛は診断名ではなく、出発点だからです。

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