運動器リハビリテーションについて

運動器リハビリテーションでは、身体機能の向上や基本的動作能力の改善を通して、日常生活活動の自立度向上を図ることを目的とします。
内容としては、運動療法、歩行訓練、日常生活活動訓練、物理療法、応用動作などを組み合わせて個々の症例に応じて行います。

リハビリテーションの適応

リハビリは医師による診察において必要と判断されて開始されます。リハビリを希望される場合でも、お身体の状態や保険制度の兼ね合いによりご希望に沿った内容、またリハビリ自体を行うことが出来ない場合がございますので、ご注意ください。
リハビリ内容としては、筋肉の伸長性や関節運動、日常での姿勢パターンなどの原因から生じた関節可動域制限、筋力低下、疼痛、バランス機能低下などを改善することが目的となります。重要な点として、リハビリの時間だけでなく、リハビリ患者様が主体となって日常生活の中で運動やケアに取り組んでいただくことが重要です。
また、骨自体が変形してしまった関節矯正、圧迫している神経根や脊髄の直接的な除圧、急性期炎症箇所への施術はリハビリでは非適応となります。

当クリニックで多い疾患とリハビリについて

当クリニックではせぼねクリニックという名前もあり、脊柱管狭窄症、椎間板ヘルニア、腰椎圧迫骨折などの患者様が多くおられます。
ですが、リハビリでは上記の疾患だけでなく、肩関節周囲炎、変形性膝関節症、変形性股関節症、頚椎症性脊髄症などの方も多く実施させていただいております。

当クリニックでのリハビリの特徴

当クリニックには低周波治療器による物理療法はありますが、けん引器械/ウォーターベッドはありません。
選ばれた理学療法士による1対1のセラピーにこそ、重点を置いています。
リハビリ室には壁一面の鏡を設置しました。
セラピストとともに歩行姿勢、立位姿勢を見て、意識的に矯正することが可能です。

脊柱管狭窄症

病態

脊柱管狭窄症のイメージ画像

椎間板や椎骨の変形、靭帯の肥厚が生じることで脊髄神経が通っている脊柱管を圧迫し、神経症状等が出現している状態をいいます。
疾患の病態と診断基準としては、

  1. 殿部から下肢の疼痛やしびれを有する
  2. 殿部から下肢の症状は、立位や歩行の持続によって出現あるいは増悪し、前屈や座位保持で軽減する
  3. 腰痛の有無は問わない
  4. 臨床所見を説明できる MRI などの画像で変性狭窄所見が存在する

とされており、②の症状は脊柱管狭窄症における間欠性跛行と呼ばれます。また、症状が進行すると、臀部から下肢にかけて痛みや痺れが出現し、尿意や便意がわからなくなるなどの膀胱直腸障害が起こる場合もあります。

リハビリで行う内容

リハビリにおいては、腹筋群賦活による腰椎前弯姿勢の軽減、脊柱前後弯両方向の動作性の学習、ホームエクササイズ指導が主になると思われます。脊柱管狭窄症のガイドラインによると、運動療法を行うことで痛みの軽減や、身体機能の改善に有効とされています。症状が憎悪すると活動量低下を招き、さらなる症状悪化というサイクルに陥る可能性があるため、日常生活動作指導や筋トレによる運動量確保は重要です。一方、脊柱管狭窄症に対する運動療法は科学的根拠がまだまだ十分に蓄積されておらず、具体的な運動が効果的かは結論がえられていません。個々の生活様式や既往に合わせた運動プログラムが必要となります。

日常生活での危険因子

  • 加齢での脊柱管自体の狭小化。
  • 腹筋が弱く、反り腰をとりやすい(脊柱管が狭くなる姿勢)。
  • 圧迫骨折やヘルニアの既往がある。

腰椎椎間板ヘルニア

病態

 腰椎椎間板ヘルニアのイメージ画像

椎間板ヘルニアとは、背骨の椎骨と椎骨の間でクッションの役割を果たしている軟骨(椎間板)が変性し、ゲル状の組織の一部(髄核や繊維輪)が飛び出すことをいいます。飛び出した組織の方向によって、脊柱管や神経を圧迫することで炎症や神経症状(痺れや感覚異常)が出現します。また、椎間板の外側に存在する脊椎洞神経(第2腰椎神経根に合流)が侵害刺激を受けるため、広い範囲での腰痛症状や大腿前面痛が生じることがあります。脱出した組織は大きいほど吸収されるため、ヘルニア自体は時間とともに軽減していくことがあります。一方、症状や神経への圧迫が強すぎる場合や3か月を超えて症状が改善しない場合、手術療法が望ましいです。

リハビリで行う内容

腰椎椎間板ヘルニアは姿勢不良や筋力低下により、椎間板に負荷がかかり発生しやすくなるため、日常生活や生活パターンの改善が必要です。そのため、リハビリで体幹筋群や股関節周囲筋の賦活といった運動療法、疼痛軽減のための腰背部にある筋肉のリラクゼーション、疼痛誘発動作を回避するための生活指導が主になります。また、ヘルニア(脱出した組織)は時間とともに白血球に吸収され、症状が治まることもあるため、過剰なストレスを与えて症状が憎悪しないよう病識の理解と生活動作への気配りが重要となってきます。

日常生活での危険因子

  • 日常生活において、家事・子育てで猫背の姿勢が多い。
  • 仕事上重たい物を持つ、長時間椅子に座っている(デスクワークなど)。
  • スポーツで腰を強く回旋することが多い。
  • 肥満などで腹筋群が弱い。

腰椎圧迫骨折

病態

腰椎圧迫骨折のイメージ画像

先ほどの椎間板を挟んでいる骨を椎骨(椎体+椎弓)と呼び、椎体部分の圧潰を圧迫骨折と呼びます。正常な背骨では転落など大きな外力が加わらなければ生じない骨折ですが、年齢とともに骨が弱くなり、尻もちやくしゃみなど軽度の衝撃でつぶれることがあります。潰れた椎体は元の形に戻ることは難しく、脊椎のバランスが崩れ、他の椎体にかかる負担が大きくなります。一つの椎体が折れると1年以内に次の骨折が発生しやすいという研究結果も出ています。また、原因として骨粗しょう症や薬剤の副作用、生活パターンなど影響される原因は多岐にわたります。

リハビリで行う内容

急性期では、コルセットを着用し安静にすることで、さらなる骨の変形や偽関節を予防しながら、骨折した部分が自然に固まるのを待つ方法が最優先されます。約2週間は安静期間とすることが多いですが、筋力低下や廃用が起こりやすいため、それらへの予防や離床を目的にリハビリ介入します。
リハビリの内容として、寝返りや起き上がり時の腰の痛みを軽減させるために、ストレッチを行い筋肉の柔軟性向上を図っていきます。加えて廃用した体幹筋や股関節周囲筋の筋力を強化していく必要もあります。受傷機転が転倒による骨折の場合は、再転倒のリスクが高くなるため、バランス訓練や下肢筋力強化も並行して実施していきます。受傷後から個人差はありますが、1か月~数か月程度すると痛みが軽減されると言われています。

日常生活での危険因子

  • 重い物を持ち上げるときに膝を曲げずに動作をしてしまう。
  • 骨粗しょう症の場合は、くしゃみや寝返りといった軽度の刺激で骨折が起きる場合がある。
  • 尻もちや後方への転倒をしてしまった。

肩関節周囲炎

病態

五十歳前後に起こる原因がよく分からない肩周辺の痛みと可動域制限を主症状とする状態を肩関節周囲炎、五十肩、疼痛性肩関節制動症、凍結肩などと呼ばれています。近年では診断技術の普及により腱板断裂、石灰沈着、上腕二頭筋長頭腱炎、腱板疎部損傷、不安定症など痛みの直接的な原因が突止められるようになってきました。 経過としては疼痛が先んじて生じ、その後に肩関節の可動域制限が進行してくる過程が標準的です。予後としては、基本的に自然寛解する疾患と考えられており、疼痛⇒可動域制限の順で改善していくまで12ヵ月~48か月要するとされています。治療選択としてはステロイド関節内注射(IA)のみが早期においては有効と報告されています。また、自宅での簡単な運動やストレッチ、理学療法の追加は、中期以降に有効とされています。

リハビリで行う内容

急性期においては積極的な可動域訓練は逆効果になりやすいです。痛みが出始めて2週間ぐらいは安静及び上肢のポジショニングが最も重要です。リハビリでは夜間における上肢の置き方や三角巾などでの肩関節の保護を最優先とします。
その後、6ヶ月程度までは慢性期で疼痛は動作時を主として出現します。慢性期のリハビリは、疼痛が出にくい範囲での関節可動域訓練、筋力訓練、腱板機能訓練、自主トレーニング指導を行います。また、肩に近い肩甲骨や胸椎の可動性を維持する介入も重要です。
6か月以降は回復期と呼ばれ、疼痛も軽減が見られやすいです。リハビリではさらに積極的なリハビリテーションが有効になってきます。肩関節の長期的な痛みや関節可動域制限により、肩甲骨の動きとのバランスに崩れが生じやすいです。それらの動きの協調性改善や最終可動域付近でのモビライゼーションを実施します。

日常生活での危険因子

腰椎圧迫骨折のイメージ画像

肩関節周囲炎の主症状として疼痛、関節可動域制限が挙げられますが、夜間痛患者の睡眠を妨げ、生活の質を大きく低下させることも珍しくありません。しかし、夜間痛の発生には個人差がみられており、原因も様々とされています。可動域の制限によっては、肩が前方挙上しにくい、肩をすくめて手を挙げてしまう、背中に手が回らないなどが挙げられます。