- 8月 29, 2026
椎間孔狭窄とダブルクラッシュ
今日は、患者さんの悩む病態があって、「学術的、世界ではどのようにそれをとらえ、治療されているか、そして私が如何に患者さんに応用したか」、を患者さん、一緒に治療しているスタッフ、そして同じような悩みを持つ患者さんに向けてわかりやすく解説したいなあ、というコラムです。自分の中で、必死に頑張っていても、「あいつ何やっとんねん」では虚しいから。
今回はダブルクラッシュというものです。
同一の神経(または同一の神経線維の経路)が、その走行上の2か所以上で圧迫・障害されている状態
少し厳密には
① 2か所に圧迫がある、と
② 1か所の圧迫がもう一方の圧迫の影響を増幅する
ですが、まあ、①の定義で、とりあえずは良しとしましょう。
頚椎+手根管
頚椎+肘部管
腰椎+腓骨神経
などの組み合わせがあるが、今回は
「L5神経が2か所で障害されている」パターン。
1か所は私が良く発信する「L5/S1椎間孔狭窄」、そしてもう1か所はL4/5脊柱管内(外側陥凹)です。この2か所の鑑別や治療法は、実は昔から議論されています。
診断法は
電気生理学的検査で鑑別する(Electrophysiological diagnosis using sensory nerve action potential for the intraforaminal and extraforaminal L5 nerve root entrapment – PMC)、MRIで鑑別する(画像診断 | 千葉大学大学院医学研究院整形外科学)など。
やはり、学術は日本の整形外科の先生が強い。
治療に関しては、
1か所手術して、芳しくなくて、「もう1か所だ」、と気づいて治療して良くなる、という事は日常茶飯事でしょう。脊柱管内を治療して、のちに椎間孔病変が明らかになることも普通にあります(Double Crush of L5 Spinal Nerve Root due to L4/5 Lateral Recess Stenosis and Bony Spur Formation of Lumbosacral Transitional Vertebra Pseudoarticulation: A Case Report and Review – PMC)。この論文の患者さんは顕微鏡だから、真ん中に少なくとも5㎝、外側も同じくらいは切ってるのではないか。
以前、私も脊柱管内を真ん中から、椎間孔を4㎝くらい外側から同時手術で除圧することもありました、顕微鏡で。真ん中から外側まで、全部の筋肉をはがすよりはましだが、赤い囲みの部分の筋肉にとっては温存されているというよりは、往復びんた、ではないかと考えていました。

現在の私の立場は、片方のL5/S1椎間孔や、L4/5外側陥凹で神経が障害されるときは、多かれ少なかれ、そちら側に荷重がかかっていたりして、もう片方も障害されている可能性がある。100‐0ではなく、80-20とか、60-40ではないか。「どちらか」、を厳密に診断するよりも、低侵襲に両方を、脊椎全体に不安定性を来さないように除圧すればいい、というもの。FESS内視鏡だから、筋肉への侵襲を大幅に抑えられる。もちろん、椎間孔狭窄に対するFELFだけで不安定性を来すことはあるので、そう予想される場合は無理しません。
まあ、そういう背景があって今回の患者さんの治療を行いました。
関東からきてくれた60代男性。
他院で自費治療のために、既に数百万円を費やしています。下肢痛は改善したが、左の難治性腰痛が残存。私から見ると、普通に左L5/S1椎間孔狭窄があり(図2のB)、神経根の腫大・浮腫性変化を疑う

初診時に日帰りFESS手術(FELF)を予約されました。
受診2回目、L5神経根ブロックを行い、症状の一時的な改善を確認しました。下肢痛がない方なので、神経根ブロックで腰痛が消失するか否かは非常に重要。
手術の数日前、MRIを見直していると、L5/S1椎間孔狭窄は間違いないが、L4/5脊柱管内も少しは関わっているかもしれない(図2A)。現役で肉体を使う仕事をされているので、今後発症するかも。「バカヤロー、あいつ、手抜き工事(手術)しやがったなあ」と思われるのも嫌なので、L5/S1のFELFをメインでやって、同時に別の8mm皮膚切開を行い、L45脊柱管内も除圧しよう、と考えました。


手術は2時間20分。術後、元気にスポーツウエアでホテルへ。少し傷の痛みはありますが、元の痛みは取れています。
翌日、お元気。症状はバッチシ。CTとMRIの説明をして、関東へご帰宅。


世の中の趨勢は、固定術を選択する術者が多いのではないかと思います。
ちなみに腰椎変性すべり症に対する米国の脊椎外科、術者の意思決定アンケートでは、「症候性椎間孔狭窄」があると、72.7% が固定側に傾くという結果でした。(72.7%が固定されたわけではない)逆に、私のように必ず除圧する、というのは、5.2%。(Current treatment and decision-making factors leading to fusion vs decompression for one-level degenerative spondylolisthesis: survey results from members of the Lumbar Spine Research Society and Society of Minimally Invasive Spine Surgery – PMC)
お住いの場所や、体幹筋肉の付き方、仕事、病状と手術リスクを受け入れるキャパ、いろんなものを加味して治療方針を立てます。私が固定術が必要と考える患者さんは他の病院に紹介しています。
私の治療方針は、顕微鏡除圧(2013年ごろまで)→固定術(2019年ごろまで)→、そして今は内視鏡除圧です。病床が取れれば内視鏡固定もありうるかもしれません。しかし、今はFESS除圧のすばらしさに惚れています。