• 9月 8, 2026

後縦靭帯骨化症 「難病」の意味

40代、爽やかなイケメンドライバー。しかし、どこか力ない。

何をお困りですか?

「くび、痛いんです、難病なんです」

(ははー、オーケー、大体わかった)

「頚を動かすと、右の後頭部が痛いんです、5年前から。今は頚の角度に関係なく、ズーンと重いんです。5年前にトレーニング始めたんですけど、トレーニング中から痛くなったんです。3年前から右肩も痛いんです。ある病院で『難病のOPLL(後縦靭帯骨化症)が頚椎にあるから、自分で調べて』、と言われました。今は心療内科に行っていて、痛みにも効く抗うつ剤をもらっています」

じゃあ、MRIをとるけど、OPLLを診るのに、CTもとらせてください。

うーん、大したことないなあ、という私の印象。最初の「オーケー」、の予想が大体当たっている。しっかり歩いているし、手も動いている。

  1. MRIで脊髄の圧迫が少なく、OPLLと頚部痛が関連していない可能性がある
  2. 「難病」という日本独特の制度・概念
  3. OPLLは、日本の脊椎外科が長年にわたって世界に先駆けて研究してきた疾患
  4. OPLLの今後の進行予測と、その治療方法

について、ゆっくりと説明しました。

患者さんは忘れちゃったかもしれないので、ここに書いておきますよ!

1.OPLLと頚部痛の関連について。

関連しているかもしれないが、脊髄への圧迫所見はそれほど強くない。そして四肢の神経症状を認めない、仕事もできている。このくらいの症状のOPLLを手術で治すという事は一般的にないと思います。頚部痛がOPLL由来と証明できないから。腰痛と脊柱管狭窄もそうです。下肢痛のない腰部脊柱管狭窄で腰痛のみの場合、姿勢や歩行での変化、様々なブロックの効果、そして手術しても治らない可能性を含めて、十分に患者さん、術者が納得してから初めて手術を行います。頚椎OPLLで、例えばC3/4に病変があり、C4神経根のみ障害されている場合は、頚部後頭部痛のみで、上肢症状を欠くこともあり得るとは思います。

この場合も、MRIでC4神経根の圧迫所見と、C4神経根ブロックで有効、という結果がなければ私は手術を躊躇します。頚部痛とOPLLの関係がその程度なのに、「OPLLあったよ、調べといて」では、患者さんによっては落ち込むのみ。だって、調べたら「難病」なんだもんね。

2.「難病」という日本独特の制度・概念

ちょっと長くなるけど、今日のコラムの核になるので、よろしく。

OPLLで言う難病という言葉は「難病法」に由来します。その法律は「怖い病気を指定する法律」ではなく、「普通の医療制度だけでは拾いきれない患者さんを、研究・医療・生活支援の面から社会全体で支えるための法律」なんです。

そもそもですが、日本の「難病」対策の始まりはSMON(スモン:亜急性脊髄視神経ニューロパチー)という原因不明のこわーい病気です。1960年代に、失明や歩行障害などを起こす、怖い病気の患者が全国で増え、社会問題になりました。

当時は、患者数が少なく、原因不明で、治療法も不明、さらに一人一人の患者への打撃の大きい病気に対して、通常の医療制度だけでは十分に対応できませんでした。

そこで、国が研究班を組織して原因究明を進め、なんと、最終的には整腸薬キノホルムとの因果関係が明らかになりました。つまり、

「原因不明の難病でも、国が研究を組織的に支援すれば、原因が分かり、克服できることがある」という大きな経験になったわけです。

これをきっかけに1972年(昭和47年)、厚生省が「難病対策要綱」を作ります。まだ法律ではありません。当時、対象とされたのは、

原因不明、治療方法未確立、後遺症を残すおそれ、慢性経過、家族の介護負担・経済的負担・精神的負担が大きい、といった病気でした。

そして対策は、研究する、医療体制を整える、医療費負担を軽くする、の3本柱。

つまり最初から、「助ける」だけではなく、「病気を研究して、いつか難病でなくす」という思想が入っています。一人一人の医師がバラバラに患者を経験し、発表する程度ではダメ。国単位で医療費も助成して、患者情報を集め、研究することによって病気と闘おう、という事。

その後、お金の問題や、どの疾患を助成するのか、などの問題がいろいろあって、「善意と予算でやる難病対策」から「法律に基づいて国が責任を持つ制度」へ変える必要が出てきた。そして「難病の患者に対する医療等に関する法律」が2014年に成立しました。

「病気があっても、普通に生きられるようにする」という法律なんです。

現在OPLLは指定難病69で、2026年4月時点でも指定難病348疾病の一つです。

3.OPLLは、なんと、世界で日本が研究をリードしてきた疾患

1975年に、厚生省がOPLLを特定疾患に指定し、同時に「後縦靱帯骨化症調査研究班」を発足させました。全国の整形外科医が集まって、この病気について何十年も研究してきたのです。だからOPLLという名前を聞いて、『誰も分からない病気なんだ』と心配する必要はありません。むしろOPLLは、日本の脊椎外科が長年にわたって非常に熱心に研究してきた病気なんです。

4.この患者さんの今後

実は初診時、膝蓋腱反射は亢進しており、Hoffmann反射も陽性でした。つまり、自覚症状としては頚部痛しかありませんでしたが、神経学的診察では脊髄の長路障害を示唆する所見がすでに認められていたのです。本人にも伝えています。積極的な手術適応はないが、慎重に診て行くべき状態、と考えます。

OPLLは少しずつサイズを増す可能性があります。加齢による脊柱管の狭窄も進むでしょう。かといって、必ず症状が進行するとは限りません。あくまで、神経症状を慎重に診て行くべき、という事。

そして、もっと重要なのは、正しく状況を理解していただくことが大事。

正直に言って、「難病だー、ダメだ―」と言って落ち込む段階ではなく、手術はまだまだ、そしてその段階が来ても手術法は、現在の日本にはしっかりとあるのです。

淡海せぼねクリニック 0748-29-3339 ホームページ