• 11月 15, 2025

MRIを取り巻く国保連合の「査定」、患者さんの希望、そして医師の勘

「患者さん」

身体の内部を診るのにMRIが非常に有用なことは誰でも知っています。ですから患者さんは自分の身体に不調があれば、「病院行こう」、とともに「MRIを撮ってもらおう」と思うのも自然です。

「国」

日本には世界に誇る素晴らしい健康保険制度があり、自己負担額は1割から3割です。そして国民健康保険団体連合会(国)が7から9割払ってくれます。

「病院」

一方、病院側としてはMRIなどの医療機器を購入し、維持費を払いつつ医療を行います。MRI検査費用のうち1から3割を患者さんからいただき、検査を行います。2か月後に国が検査の必要性を認定すれば残りの7から9割が振り込まれますが、認めなければ振り込まれません。これを「査定」される、と言います。

3年前に開業するまでは自分が必要と考えた画像検査を国が認めない(査定する)、という事は三重、愛知、大阪、静岡ではあり得ませんでした。使ったお薬がレセプトで通らずはねられること、手術での止血剤を国が認定せず病院が自己負担、という事はしばしばありました。でも、画像はほとんど認めてくれました。

滋賀県は他府県に比べて圧倒的に査定率が高い。これは間違いありません。京都、愛知、九州の医師仲間に聞いても、うちはあり得ないはねられ方をします。おそらく国保連合、保険査定する側の先生方はしっかりと意識して他府県と差をつけておられると思います。開業する前にはだーれも一切教えてくれません。

手元にある令和7年8月度の淡海せぼねクリニック国保査定の結果は、

  • 腰椎MRIは75%(44/59例)が査定
  • 頚椎MRIは83%(5/6例)が査定
  • 肩膝MRIはほとんどすべて査定、すなわち不必要、という事。すごいでしょ。

病院は国の認可のもとで保険医療を行っていますので、国が不要と考える検査をすることはできません。どうしても必要な場合にはドックのように患者の自己負担で行うか、病院の負担で行うか。病院負担で行うのが普通になれば、病院はつぶれます。その病院はなくなりますので、これは原理的にあり得ません。

こういうわけでMRIを撮るかどうかは国から医師の裁量に任されているわけです。

淡海せぼねクリニックではMRIの適応についてできるだけ丁寧にご説明しています。上に書いたような事情も混ぜて伝えています。腰椎MRIでは特に急性発症例では圧迫骨折を疑いますのでできるだけ撮ります。私は腰痛をこう診ている 「急ぐか、MRI要るか」 | 淡海せぼねクリニックブログ

1年半前に「初診月のMRIは原則認定しない」と国保連合にはっきりと言われ、その直後に腰痛患者AさんのMRIをある先生が撮りませんでした。国保連合のセオリー通りです。私であれば、なんとなくそのあとの事態を予想して「国が認めんでも良い」としてMRIを撮ったと思います。Aさんは数日後に救急で医療センターに搬送され、入院されました。のちにAさんの娘にどえらい電話で怒られました。「圧迫骨折だった」と。幸いに3か月後に受診してくれましたので、MRIなどすべて行い、話し合いの末にBKP手術を行いました。

時間がたっていたのですが、ラッキーなことに症状は改善され、今でも外来に通院してくれています。いつもこの患者さんのことを思い出しますので、特に腰痛の患者さんでは適応を広げて、7割査定されてもMRIを撮ります。他院でせぼねの病気が見つかったら恥ずかしいですから。

つい最近では、腰椎術後でフォローしていた患者さんが尻もちをついて尻と腸骨の激イタで受診されました。通常なら絶対に査定されると思いましたが、関係ありません。

何と圧迫骨折と尾骨骨折が見つかりました。本当にやばかった、もし見落としたら!

もう一つ最近のファインプレー

レントゲンで変形の強くない患者さんに膝のMRIを行いました。私の判断です。膝ですから100%査定されるのを覚悟の上です。何と脛骨に壊死を認めました。新しく来てくれた整形専門の先生に相談したら「負荷をかけるとつぶれる」、とのことで、松葉杖になりました。

しかし、3年前から「頭がぼーっとする」「手足がしびれる」という患者さんの脳MRIの希望は丁重にお断りさせていただきました。新たな症状がなく、下肢の血管MRA、頚椎、腰椎MRI、そして脳のMRIはこの3年間で、既に2回行っています。本人も「ストレス、不安、精神的かなあ」と言われますし、私もその方面での治療をお勧めしています。

自分としてはこの目玉おやじの様ではなく、左図くらいのイメージでやっています。かなり患者さんの要望に沿うように。

正直に申し上げて「なんも病気ないだろうなあ」と思っても疑いが無くはない場合MRIを撮ることがあります。「あなたの不調の原因はわからないけど、あんな病気やこんな病気がない事だけはわかりました」と言えるから。ここは国保連合に読んでいただきたくないですが。

国の指導の下、患者さんの期待を背に受けて、自らの勘を研ぎ澄まし、明日からもMRIを撮っていこう。

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