• 10月 26, 2025

腰部脊柱管狭窄症と排尿障害 除圧が間に合った人と遅かった人

にょう神経外科医の叫び

「年を取ったらおしっこってこんなもんでしょう」、と隠れてあきらめるもよし。 一方、勇敢に立ち向かって、気持ちよい「ふつうのおしっこ」を取り戻すもよし。

今日は術前に尿失禁を来していた男性と女性の患者さんを紹介します。外来受診日が10月の4日違いでしたので、対照的で強烈な印象を残しました。

症例1

70代男性

「関東の大学病院を紹介してほしい」
「かかかかかんとう? えっ? なんで?」
「足首が治らんから、尿失禁も」
「そーですか。手術前の話、覚えています?」

半年前に腰部脊柱管狭窄症2椎間除圧を内視鏡で行いました。主訴は両下肢痛・しびれの間欠性跛行。2年前からの左足首麻痺でスリッパが脱げる、尿失禁と尿勢低下もある。術前説明では 「筋力低下と排尿障害は、悪い言葉でいうと『超えてはいけない川』なんです。それが出るより前に手術をすればよかったのですが。痛みは改善する可能性はありますが、下肢しびれ、筋力低下、おしっこの機能は残る可能性がかなりあります」 術後、下肢痛が改善し、歩行可能距離が伸びました。それは満足頂いたのですが、下肢筋力と排尿機能は落ちたままです。患者さんを責めませんが、もっと早く腰椎とおしっこの関係について説明を受けたらよかったのに。

私は男性でも女性でも排尿のことは必ず聞きます。
次は女性

症例2

70代女性

術後、まだ1か月も経過していません。 術前症状:立つと両殿部痛、左下肢痛、しびれ。8年前から内服、湿布。1か月前から悪化して、買い物中もカートがなければ座り込むほど。家ではほとんど座っている。 ヨガとダンスはできる。

排尿症状は

1.切迫性尿失禁(思わず漏れそうになる)
2. 排尿開始遅延(トイレに急ぐけど出ない)
3.尿勢低下(シュッといかない)

1から3までをお聞きしたときには胸が高まりました。
これは治るにおいがする! ここに

4.尿閉(自分では出せない)で導尿している
5.失禁でおむつです

などが入っていると、うーん無理かなあ。
治らんかなあ、と思います。

失禁も切迫性ですから、だだ漏れにはなっていません。少しちょぼっと漏れるくらい。この症状は治ってこれは治らないって、どこにも書いていないと思うのですが、機能が落ちまくっていたら治りにくいのは当然。

MRIで分るのはめちゃくちゃ狭窄が強くて、上下に狭い範囲が長いという事。手術では左右幅も当然ですが、頭尾側にしっかりと除圧しなくてはいけない。8mmの内視鏡をグイっと頭側に傾けて、多少血が出ても妥協せず。

手術はうまくいき、ドレーンを入れずに日帰り。次にお会いしたのは1週間後。創を見ながらお話

「両側殿部痛は結構残っているけど下肢痛としびれはとれた。おしっこはしっかり出るようになった。我慢もできるようになった。今朝、夢で足が痛かったけど、起きたら痛くなかった、8年間だからねえ」

<h2>脊椎疾患と排尿機能の研究</h2> 2010年から2011年にかけて藤枝平成記念病院、花北先生の指示で患者の排尿機能をせっせと集めていました。一緒に研究していた同じ年の渡邊水樹先生(聖隷浜松)が「俺たち脳神経外科医ではなくてにょう神経外科医だね」。彼の唯一のおもろいギャグとして、今でも評価しています。
その頃のぼろぼろになるまで読んだテキストが「神経因性膀胱NOW」。目次を見ると、ここまで議論されているんだって驚きますよね。排尿機能のみでも手術適応になるのではないか、というのが花北先生のテーマだったと記憶しています。もっと正確に神経因性膀胱のことが解れば手術適応も変わるかも。頑張らねば

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