• 8月 6, 2025

痛みしびれのない筋力低下はALSを疑え

先日、頚椎疾患で当院にて内視鏡手術を予定していたが、事前にALSと判明して手術を中止した患者さんがお亡くなりになられたという連絡が来ました。これは外科医は肝に銘じなければいけない症例ですので、上げます。

70代女性
右手の筋力低下で発症。 A整形で頚椎疾患と診断され、頚椎けん引。
半年後に両手の脱力になってきた。B整形で、ばね指とへバーデンと診断。
はじめの右手脱力から約1年経過し、淡海せぼねクリニックに受診。
両上肢遠位筋を中心に4/5程度の低下。握力右10、左12㎏。歩行と排尿は正常。

MRIではC4/5を中心に脊髄圧迫所見を認めました。

膝の腱反射が亢進しており、頚椎症性脊髄症を第一に疑って検査を開始しました。内視鏡下椎弓形成術を予定して、手術日も決まっていたのですが、よーく考えると「痛みしびれがない筋力低下=ALSを疑え!」です。

ALS(筋萎縮性側索硬化症)
筋萎縮性側索硬化症(ALS)(指定難病2) – 難病情報センター
1.手足・のど・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がだんだんやせて力がなくなっていく病気です。筋肉の病気ではなく、筋肉を動かす神経が主に障害をうけます。その結果、力が弱くなり、筋肉がやせていきます。その一方で、体の感覚、視力や聴力、内臓機能などはすべて保たれることが普通です。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか
全国では、令和2年度の特定医療費(指定難病)医療受給者証所持者数によると10,514人がこの病気にかかっており、徐々に増えています。

3. この病気はどのような人に多いのですか
最もかかりやすい年齢は60~70代です。まれにもっと若い世代での発症もあります。

有名人としては物理学者ホーキング博士、徳洲会の徳田虎雄先生がいます。

近くの神経内科にご相談したところ、やはりALSを疑われました。京都の大学病院で電気生理学的検査を行い、やはり、ALSであると確定診断されました。エダラボンの内服などが行われましたが、8か月で歩行不能、10か月で胃ろう、呼吸補助器の使用が始まり、1年4か月でお亡くなりになられました。

ALSと脊椎疾患については10年以上前に痛い思い出があります。藤枝平成記念病院時代の症例です。腰痛発症、下肢痛はないけど、下肢冷感はありました(これもALSに特有です)。外来で1回神経内科に受診しましたが、その時はALSの診断はつきませんでした。下肢痛がはっきりしないので半年ほど外来で経過を診ました。呼吸が苦しくなるほどの腰痛(結局これもALS症状だったのかもしれません)のためにいったん入院しました。脊髄造影を行い、腰部後屈で著明に神経が圧迫されます。カンファレンスにて、手術の運びとなりました。術後、一旦腰痛は良くなりましたが、1週間くらいでみるみる両側大腿が痩せてきました。ALSを疑い、隣の市の有名な神経内科の先生に診てもらったら「ALS、間違いない」。気管切開は選択されず、4か月で亡くなりました。

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ALSの患者さんは全身麻酔をかけると病状が進行すると言われています。ですから、たとえ腰椎疾患があっても全身麻酔の手術はしない方が良いです。

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