- 7月 17, 2025
動揺歩行で発症したL2/3/4黄色靱帯骨化症:いろんな意味で危険な手術
内視鏡下椎弓切除術 MEL
2025年7月17日朝
先日はとても危険な手術を行いました。通常手術3例分くらいの大変な1例、と書いた手術です(ゆっくり、落ち着いて、自信をもって、準備して、心を込めて、そして「活舌悪いという自覚」をもって話しましょう、私 | 淡海せぼねクリニックブログ)。
患者情報と症状
患者:70代男性 主訴:右腓腹筋麻痺、腓腹の突っ張り、歩行障害(動揺歩行) 画像:L2/3/4 黄色靱帯骨化による脊柱管狭窄 神経症状:右腓腹筋力低下(2/5)のみ

危険な手術の経緯
経過:2月発症。6月中旬に淡海せぼねクリニック初診。7月末に東南アジアへ日本語教師として旅立つ予定と。MRIで強い脊柱管狭窄、CTでは激しい黄色靱帯の骨化があり、手術ではかなり硬膜損傷の危険があると思われます。通常なら入院施設のある病院に紹介します。
歩行障害のために手術を希望されたのが6月末であり、他院に紹介しても受診が7月初め。7月末に仕上げるのは難しいと思いました。しかし、このまま東南アジアに行けば、数か月で症状が悪化して、歩行障害で日本に戻ることが目に見えていました。何とかして治して行かせたいと思いました。
硬膜損傷の危険はありますが、さっさと当院で手術をして0泊で帰そうと思いました。16ミリ内視鏡の術後、病棟で患者さんがすたすた歩くのは証明済みであり、筋肉質の方なら大丈夫ではないかと思いました。
本件手術の危険性
この患者さんを淡海せぼねクリニックで手術することの危険性は以下のようなものです。
- 黄色靱帯骨化、しかもかなり発達した骨化なので硬膜損傷しやすい。当院には入院施設がありません。
- なぜ通常のように痛みしびれが出て、最後に筋力低下、ではなく筋力低下のみで発症したのかが不明。 痛みしびれの感受性の問題ではないかと考えています。ほかにもこういう患者様はみえます。あまりはっきりと教科書には書いてありませんが、痛みしびれで発症する患者さんよりも病状は進行しているのではないかと考えられます。
- 通常、L2/3/4狭窄で腓腹筋麻痺は出ません。 腓腹筋の神経支配はS1です、つまりL5/S1病変です。L2/3/4病変なら通常は膝折れや脚の上がりにくさのほうが先に来ると思われます。しかし、過去に大学で、L4/5狭窄で腓腹筋のみの麻痺症例を経験していましたので、腓腹筋麻痺についてはあり得るとは思いました。
- 痛みは術後、改善がわかりやすいが、筋力低下の改善には通常時間がかかります。 その為、手術をしても効果を実感できない可能性があります。




手術の実施と結果
これらを考慮し、患者さんに十分に説明した上で、手術を行いました。
その日、3例目の手術として16ミリ内視鏡、2か所の除圧術です。1例目、2例目の手術は8ミリ内視鏡で、実際に1時間と少しで終わっています。この患者さんの手術は3時間7分、文字通り通常手術の3例分の大変な手術となりました。
幸い硬膜損傷は起こさず、除圧はばっちり。術前と術翌朝(術後16時間)の歩行動画をお示しします。明らかに骨盤ふらふら歩行が改善しました。右足のツッパリもなくなりました。術後2時間くらいで動き始めた時に腰痛を訴えたので、結局泊りになりましたが、夜はすたすた歩き、翌朝の動画の後で帰宅されました。


MED(MEL):16ミリ内視鏡手術について
はじめの1年はMEDがメインでしたが、今はごくごく症例を絞って行っています。許可された入院病床がないので、日帰り手術のみを行うようにしています。MEDでは、その日に帰る患者さんもいますが、やはり1泊になることがあります。
どうしてもMED手術が望ましいのは、あまりにも骨が硬い症例、骨からの激しい出血が予想される症例、今回のように硬膜損傷が予想される症例です。FESSよりも止血は容易です。硬膜損傷をしても、難しいですが修復はできます。ただ、8ミリFESSより創部の侵襲があるので、許可病床のない当院向きではありません。
このコラムを書いた理由は、何気なくFESSと同じように帰って行かれた患者さんですが、実はかなり危険だった、そしてL2/3/4でも腓腹筋障害が来ることがある、という事をお伝えしたかったのです。ちなみに、藤枝平成記念病院時代にもこのことは話題に上りました。完全には理由はわかっていません。(腰椎レベルにみられる偽性局在徴候の研究-腰椎高位での圧迫性病変により単一L5神経根症を呈した症例をもとに | 文献情報 | J-GLOBAL 科学技術総合リンクセンター)